色々なものに自覚的でないといけない

 昨日の記録。
 
 明け方6時。設定をオフにし忘れたアラームが立てる音を微睡みの中で消して、二度寝という久方ぶりの幸せに身を預けた。
途中、蚊に刺されたみたいに顔がかゆくてでも肌へのダメージを考えると掻くことはできなくて、最終的にむにむにとマッサージするようにつまんでいたことは覚えている。寝ぼけているくせにそういうところだけは思考が生きているらしい。
ただ起きたら蕁麻疹ぽかったから掻きむしらなくてよかったと心底思った。おかしなものを食べた記憶もないし疲れかストレスか。念のためキンカンを塗ったら擦って赤くなった頬がぴりぴりとした。
 その殆どを睡眠に溺れ、堕落した時間を過ごした午前中は気が付くと終わっていて、リビングの電波時計の1:02の表示に目を疑った。11時ではなく1時。味噌汁を飲みながらなんとなく虚しい気持ちになった。
 午後、久しぶりに祖父母の家へ訪れた。ソファに寝そべって目を閉じる祖母の姿に一瞬息が詰まって、反射的に目を逸らしてしまった。
 今月結構危ないかもしれないから、顔を見に来てやってくれ。祖父がそう言っていたと妹から聞いたのはつい先日。年明けに余命を宣告されてから5ヶ月弱、いつまでも元気でいてくれるんじゃないかと心のどこかで甘いことを考えていた。
話せる、歩ける、食べられる。普通の人が普通に行えることのすべてに「明日も必ず」という保証はない。誰だってそう。だけどその確率が他の人より低い人というのはいる。それだけのこと。
それだけのことなのに、悔しくて仕方がない。こんな理不尽があってたまるものかと思う。なんで、なんでなんだよ。馬鹿野郎。
 心に巣食うもやもやを誤魔化すように明るい話をした。仕事楽しいよ、みんないい人達だよ。その会話を向ける先が祖父ばかりだったのは否めない。
祖母と言葉を交わせば、向き合わなければいけない現実に捕われるような気がしていたのだと思う。話したくらいで悪化するような馬鹿げたことが起こるはずもないのに。どうしようもない臆病者だ。
 置いていかれることが怖い。怖くてたまらない。
医者でも魔法使いでもない私にはどうすることもできないんだからせめて心構えを、そう無理矢理納得させたはずだったのに。
 喪失感の積み重ねがいつか致死量を超えてしまうような、そんな気がしている。
 
 夜は大好きなamazarashiのライブへ行った。
元々は兄が好きで、そこから聴き始めたバンドだった。苦しくてたまらない時、何度も何度も助けられた。
優しく柔らかい真綿のような言葉で励ますんじゃなく、自分の代わりに理不尽な世界をぶち壊してくれるような、共鳴性の高い曲たちはいつだって私の神様だった。本当に大切なバンドだ。
アニメとのタイアップで爆発的に人気が上がった印象だけれど、ツアー中の数少ない東京公演(月末に追加公演が決まっているものの)、運良くチケットが取れてよかったと思う。ここ数年ずっと好きだったわりに、生歌を聴くのは初めてのことだった。
 5分と少し、時間が押して始まったライブは凄まじかった。息をするのも忘れるくらい、舞台に演出に曲に引き込まれた。Lyu:Lyuのライブを初めて観に行った時以来の感覚だった。
ふっと会場内の明かりが落ちてポエジーのイントロが始まった瞬間、心臓をぎゅっと掴まれた。
 ヒーロー、ヨクト、タクシードライバー。僅かに間をおいてワンルーム叙事詩、奇跡。エトセトラ。
MCもなくひたすら歌を、叫びを紡ぐ2時間、本当に素晴らしかった。腕を上げることも声を出すこともない、ただ拍手と何度も零れる涙と。
 ひろを聴きながらふと、三宅のことを思い出した。私は君に叱ってほしい。ねえ、私はなんだかとってもだめな情けない大人になっているんだ。彼女もまたいつまでも、19歳のままだから。
 よくよく分かったことがある。私はそれほど強い人間じゃない。折れきった何かにじっと耐えて治せるほど器用な人間でもない。自己評価は下方修正しなくてはならない。
お酒を飲むと頭が痛くなる最近は、どんどん逃げ場所がなくなっているようで苦笑しかもれない。逃避すら許されないとは困ったもので。
 たらればのいう「もしも僕が神様だったら嫌なやつは全員消して、でもそうすると僕以外皆いなくなるかもな、それなら僕が消えた方が早いな」というその通りなのだろうと、聴きながらぼんやりと考えた。
おしまい。